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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)2253号 判決

兵庫県宝塚市美幸町一〇番五一号

原告

栄レース株式会社

右代表者代表取締役

土井一郎

右訴訟代理人弁護士

渡辺四郎

末井太

群馬県佐波郡境町大字保泉九六四番地

被告

株式会社フアスター

右代表者代表取締役

織間一

右訴訟代理人弁護士

宇井正一

主文

一  被告は、別紙イ号目録記載の細幅レースを製造販売してはならない。

二  被告は、前項の細幅レース並びにこれを製造するために使用するレース糸の分解図面(ドラフト)、コンピュータージャカード用のフロッピー及びテープを廃棄せよ。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨

2  被告は、別紙ロ号目録記載の細幅レースを製造販売してはならない。

3  被告は、前項の細幅レース並びにこれを製造するために使用するレース糸の分解図面(ドラフト)、コンピュータージャカード用のフロッピー及びテープを廃棄せよ。

4  被告は、原告に対し、金二三二万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被告は、別紙謝罪広告目録記載の雑誌に同目録記載の広告を一回掲載せよ。

6  訴訟費用は被告の負担とする。

7  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の独占的通常実施権及び専用実施権

(一) 株式会社コアクレア(以下「コアクレア」という。)は、次のとおりの意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。

出願 平成三年一二月一一日

登録 平成五年五月一八日

登録番号 第八七五四六九号

意匠に係る物品 細幅レース地

登録意匠 別紙意匠公報記載のとおり

(二) 原告は、コアクレアから、本件意匠権について専用実施権の設定を受けることになっており、本件意匠権の成立当初から独占的通常実施権を与えられていたが、右専用実施権は、平成八年二月一三日、設定登録された。

2  本件意匠の主要な構成

本件意匠の主要な構成は、別紙本件意匠の主要な構成(一)記載のとおりである。

3  被告によるイ号製品及びロ号製品の製造販売

被告は、別紙イ号目録記載の細幅レース(以下「イ号製品」といい、その意匠を「イ号意匠」という。)及び別紙ロ号目録記載の細幅レース(以下「ロ号製品」といい、その意匠を「ロ号意匠」という。)を業として製造し販売している。

4  イ号意匠及びロ号意匠の主要な構成

(一) イ号意匠の主要な構成は、別紙イ号意匠の主要な構成(一)記載のとおりである。

(二) ロ号意匠の主要な構成は、別紙ロ号意匠の主要な構成(一)記載のとおりである。

5  本件意匠とイ号意匠との対比

本件意匠とイ号意匠とを対比すると次のとおりである。

(一)(1)〈1〉 本件意匠とイ号意匠は、ともにS字形の波動感を持った葉柄をメインモチーフとしており、その葉柄は、いずれも先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄で構成されている。

〈2〉 同葉状の柄は、本件意匠では上下各四個であるのに対し、イ号意匠では下が二個になっているに過ぎない。

〈3〉 同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸のあることは、全く同一である。

〈4〉 本件意匠における同葉柄の右横の、同葉軸とそれに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間が、イ号意匠では、同葉軸とそれに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間になっている。

(2) 同ネット状の空間の下方には、本件意匠では四個のU字形の模様があるが、イ号意匠では船形の模様になっている。

(3) 同ネット状の空間の右横には、本件意匠では環状に並んだ小花に囲まれた荒い目のネット状の空間があるが、イ号意匠では弧状に並んだ三個の小花になっている。

(4) 同葉柄の左横には、本件意匠では小玉に囲まれた荒い目のネット状の空間とその下にネット状の空間があるが、イ号意匠では小花等に囲まれた荒い目の空間になっている。

(5) 右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して横に連続させた構成であることは、全く同一である。

(6) 各部分の大きさのレース幅に対する割合もよく似ている。

(二) 右のとおり、本件意匠とイ号意匠とは、構成する要素たるモチーフ、描法などの表現方法、配列などの構図、柄の大きさ等が類似するばかりでなく、部分的には違う点があっても全体として観察すれば、類似している。

6  本件意匠とロ号意匠との対比

本件意匠とロ号意匠とを対比すると次のとおりである。

(一)(1)〈1〉 本件意匠とロ号意匠は、ともにS字形の波動感を持った葉柄をメインモチーフとしており、その葉柄は、いずれも先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄で構成されている。

〈2〉 同葉状の柄は、本件意匠では上下各四個であるのに対し、ロ号意匠では下が二個になっているに過ぎない。

〈3〉 同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸のあることは、全く同一である。

〈4〉 本件意匠における同葉柄の右横の、同葉軸とそれに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間が、ロ号意匠では、同葉軸に囲まれたネット状の空間になっている。

(2) 同ネット状の空間の下方には、本件意匠では四個のU字形の模様があるが、ロ号意匠では勾玉様の模様になっている。

(3) 本件意匠では、同ネット状の空間の右横に、環状に並んだ小花に囲まれた荒い目のネット状の空間があるが、ロ号意匠では同ネット状の空間の下に荒い目のネット状の空間がある。

(4) 同葉柄の左横には、本件意匠では小玉に囲まれた荒い目のネット状の空間と、その下に勾玉様の模様で囲まれ小玉二個を浮かせたネット状の空間があるが、ロ号意匠では勾玉様の模様を上に三個のU字形の模様を下にして、その間を小玉三個を浮かせたネット状の空間にしている。

(5) 右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して横に連続させた構成であることは全く同一である。

(6) 各部分の大きさのレース幅に対する割合もよく似ている。

(二) 右のとおり、本件意匠とロ号意匠とは、構成する要素たるモチーフ、描法などの表現方法、配列などの構図、柄の大きさ等が類似するばかりでなく、部分的には違う点があっても全体として観察すれば、類似している。

7  廃棄請求

レースの製造は、まずスケッチが描かれ、そのスケッチどおりのレースを編み上げるためにはどのような糸をどのように編み上げればよいかを見つけ出して、その糸の走りを図面上に表し(ドラフトという)、それをコンピュータージャカード用のフロッピー若しくはデータテープに収め、そのフロッピー若しくはデータテープを使ってレース編み機を動かし編み上げるものである。

8  損害

(一) イ号製品について

被告は、本件意匠権の登録後本訴提起の日(平成五年一二月一日)までに、少なくとも一〇万メートルのイ号製品を製造販売し、一メートルあたりの利益は一三・五円であるから、イ号製品の製造販売により一三五万円の利益を得た。

(二) ロ号製品について

被告は、本件意匠権の登録後本訴提起の日(平成五年一二月一日)までに、少なくとも一〇万メートルのロ号製品を製造販売し、一メートルあたりの利益は九・七五円であるから、ロ号製品の製造販売により九七万五〇〇〇円の利益を得た。

9  信用回復措置請求

細幅レースは、通常止め柄といって特定の柄のレースは特定の服飾メーカーのみに販売され、不特定多数に販売されることはないから、被告がイ号製品及びロ号製品を製造販売したことにより、原告は、服飾メーカーの信頼を失い、レースメーカーとしての業務上の信用を著しく毀損低下せしめられた。

10  代位行使(予備的)

原告は、独占的通常実施権を保全するため、コアクレアが被告に対して有する権利(損害賠償請求権)を代位行使する。

12  よって、原告は被告に対し、本件意匠権の専用実施権に基づき、イ号製品及びロ号製品の製造販売の差止め、イ号製品・ロ号製品、これらを製造するために使用するレース糸の分解図面(ドラフト)、コンピュータージャカード用のフロッピー及びテープの廃棄を、本件意匠権の専用実施権または独占的通常実施権に基づき、信用回復措置として謝罪広告の掲載を、並びに第一次的には独占的通常実施権に基づき、第二次的にはコアクレアに代位して、損害賠償請求として金二三二万五〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年一二月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1について

(一) 同(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、原告がコアクレアから原告主張の時期に本件意匠権の専用実施権の設定登録を受けたことは認める。

2  同2の事実は争う。

(一) 本件意匠の主要な構成の記載は、著しく適切さを欠いている。本件意匠の構成についての原告の主張は、各構成要素の輪郭形状及び配置の割合的記述に終始しているが、本件意匠は図面で特定されているのではなく、図面代用見本をもって原本で特定されているところ、原告がメインモチーフと主張する葉柄及び原告のいう空間部分は、形態上極めて大きな特徴を有するにもかかわらず、これが欠落している点で不適切である。すなわち、

(1) 原告は、本件意匠の葉柄を単に「先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄上下各四個から構成される」と記載するが、本件意匠の葉柄の葉状の柄は、葉軸の下側に五個、上側に三個配置されているというべきであり、さらに下側の五個は全体に糸を密に織り込んでなるものであり、最も左側の一個はハート形の合わせ目で分かれて大小をなしており、上側の三個についてはハート形の頂部は三日月形に糸を密に織り込み、その内側はこれよりやや糸を疎に織り、軸の部分はさらに疎に糸を織った三重構造をなしているというべきであり、かかる葉柄の葉軸の上下の葉状柄の織密度を明確に異ならしめることによるコントラストをもって下側の葉状柄を強調していることが、本件意匠の葉柄の形態としての最大の特徴となっている。

(2) 原告は「環状に並んだ小花に囲まれた荒い目のネット状の空間がある」(別紙本件意匠の主要な構成(一)第三項)「環状に並んだ小玉に囲まれた荒い目のネット状の空間がある」(同第四項1)と主張するが、前者はいわば花車状であるのに対し、後者はいわば車輪状であり、その形態は各々異なる特徴を有するのであって、単に「荒い目のネット状の空間」という表現で統一すべきものではない。

(3) 原告主張の「同葉軸の右横に、同葉軸とそれに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間」(別紙本件意匠の主要な構成(一)第一項3)は、本件意匠の独立した構成要素とみるのは困難で、むしろ余白部分とみるべきである。

(二) 右のような点からすると、本件意匠の主要な構成はより適切には、別紙本件意匠の主要な構成(二)記載のとおりである。

3  同3の事実のうち、被告がロ号製品を製造販売していることは認めるが、その余は否認する。被告は、イ号製品については、その製造販売を平成五年六月に中止しており、現在は製造販売していない。

4  同4について

(一) 同(一)の事実は争う。

(1) 原告主張のイ号意匠の主要な構成は、著しく適切さを欠いている。イ号意匠の構成についての原告の主張は、各構成要素の輪郭形状及び配置の割合的記述に終始しているが、本件意匠は図面で特定されているのではなく、図面代用見本をもって原本で特定されているところ、原告がメインモチーフと主張する葉柄及び原告のいう空間部分は、形態上極めて大きな特徴を有するにもかかわらず、これが欠落している点で不適切である。すなわち、

〈1〉 原告は葉柄の表現として「先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄上四個下二個から構成される葉柄がある」と主張するが、各葉状柄は、頂部のみが三日月形に糸を密に織り込んであり、中央部は糸をやや疎に織ってあるため頂部とは形態が異なる。原告の右主張には、かかるコントラストの相違は各葉状柄に共通するものであるという形態上の特徴が欠落している。

〈2〉 原告の主張するイ号意匠の主要な構成は、空間部といえども意匠の重要な構成要素であるという視点を欠く。すなわち、原告は「同葉軸とそれに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間がある」(別紙イ号意匠の主要な構成(一)第一項3)「葉の先端部と小花に囲まれた荒い目のネット状の空間がある」(同第四項)と主張するが、前者はいわば手毬形をしたイ号意匠の独立した構成要素であり、後者は余白部分であると考えられるから、単に「荒い目のネット状の空間」という表現で統一すべきものではない。

(2) 右のような点からすると、イ号意匠の主要な構成は、より適切には別紙イ号意匠の主要な構成(二)記載のとおりである。

(二) 同(二)の事実は争う。

(1) 原告主張のロ号意匠の主要な構成は、著しく適切さを欠いている。ロ号意匠の構成についての原告の主張は、各構成要素の輪郭形状及び配置の割合的記述に終始しているが、本件意匠は図面で特定されているのではなく、図面代用見本をもって原本で特定されているところ、原告がメインモチーフと主張する葉柄及び原告のいう空間部分は、形態上極めて大きな特徴を有するにもかかわらず、これが欠落している点で不適切である。すなわち、

〈1〉 原告は葉柄の表現として「先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄上四個下二個から構成される葉柄がある」と主張しているが、各葉状柄は、頂部のみが三日月形に糸を密に織り込んであり、中央部は糸をやや疎に織ってあるため頂部とは形態が異なる。原告の右主張には、かかるコントラストの相違は各葉状柄に共通するものであるという形態上の特徴が欠落している。

〈2〉 原告の主張するロ号意匠の主要な構成は、空間部といえども意匠の重要な構成要素であるという視点を欠く。すなわち、原告は「同ネット状の空間と同勾玉様の模様に囲まれた荒い目のネット状の空間がある」(別紙ロ号意匠の主要な構成(一)第三項)「葉軸に囲まれたネット状の空間がある」(同第一項3)と主張するが、前者は三日月状であり、むしろ余白部分とみるべきであるのに対し、後者は周囲の部分からは独立したいわばイチゴ形の部分として、ロ号意匠の独立した構成要素と把握するのが自然であるから、単に「荒い目のネット状の空間」という表現で統一すべきものではない。

(2) 右のような点からすると、ロ号意匠の主要な構成は、より適切には別紙ロ号意匠の主要な構成(二)記載のとおりである。

5  同5の事実は争う。

(一) 同(一)(1)〈1〉の主張に対して

イ号意匠の葉柄は、S字形というよりむしろフック形に配置されている。もっとも、葉柄は自然物のモチーフであり、これをS字に配置することは本件意匠登録出願時に公知であって本件意匠に独自のものではない。

また、何をメインモチーフとして意匠の製作がなされたかは、すぐれて主観的なものであるのに対し、意匠が類似するか否かは意匠自体から客観的に定められるべきものである。

(二) 同(一)(1)〈2〉の主張に対して

本件意匠の葉状の柄は、上下各四個ではなく、上が三個、下が五個というべきであり、かつ、上下の葉柄の形態が異なるのに対し、イ号意匠の葉状の柄は、上四個、下二個から構成され、かつ、上下の葉状柄の形態は共通する。

(三) 同(一)(1)〈4〉の主張に対して

本件意匠における「同葉軸の右横の、同葉軸とそれに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間」(別紙本件意匠の主要な構成(一)第一項3)は、本件意匠の独立した構成要素とみるのは困難で、むしろ余白部分とみるべきであるのに対し、イ号意匠における同葉軸とそれに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間は、いわば手毬形をしたイ号意匠の独立した構成要素であり、右手毬形部分は本件意匠には存在しない。

(四) 同(一)(3)の主張に対して

本件意匠の構成要素である環状に並んだ小花に囲まれた荒い目のネット状の空間(花車状部分)は、イ号意匠には存在しない。

(五) 同(一)(4)の主張に対して

本件意匠の構成要素である小玉に囲まれた荒い目のネット状の空間(車輪状部分)は、イ号意匠には存在しない。

(六) 同(一)(6)の主張に対して

本件意匠及びイ号意匠の各構成要素はまったく独立して配置されているものではなく、他の要素と連係して配置されているのであって、いかなる境界線をもって計測すべきかは一義的には決定しえないから、各構成要素の大きさのレース地に対する割合は類似の根拠とはなりえない。

(七) 右のとおり、本件意匠とイ号意匠とは、その主要な構成要素について形態が著しく相違し、非類似である。

また、全体観察すれば、本件意匠では前記車輪部分及び花車部分が葉柄の両端すなわち葉柄と交互に「…葉柄-車輪-花車-葉柄-車輪-花車-葉柄…」と上下二列に配置されており、また、各葉柄は、連続的にサインカーブを描いて配置されている。これに対し、イ号意匠では、前記手毬形部分はレース地の中央に近い位置に交互に配置され、当該手毬形部分から伸びる葉柄がそれぞれ背中合わせに交互にレース端部に流れる印象を与え、各葉柄は連続せず、決してサインカーブを描くことはない。したがって、全体として観察しても、本件意匠とイ号意匠とは非類似である。

6  同6の事実は争う。

(一) 同(一)(1)〈1〉の主張に対して

ロ号意匠の葉柄は、S字形というよりむしろフック形に配置されている。もっとも、葉柄は自然物のモチーフであり、これをS字に配置することは本件意匠登録出願時に公知であって本件意匠に独自のものではない。

また、何をメインモチーフとして意匠の製作がなされたかは、すぐれて主観的なものであるのに対し、意匠が類似するか否かは意匠自体から客観的に定められるべきものである。

(二) 同(一)(1)〈2〉の主張に対して

本件意匠の葉状の柄は、上下各四個ではなく、上が三個、下が五個というべきであり、かつ、上下の葉柄の形態が異なるのに対し、ロ号意匠の葉状の柄は、上四個、下二個から構成され、かつ、上下の葉状柄の形態は共通する。

(三) 同(一)(1)〈4〉の主張に対して

本件意匠における「同葉軸の右横の、同葉軸とそれに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間」(別紙本件意匠の主要な構成(一)第一項3)は、本件意匠の独立した構成要素とみるのは困難で、むしろ余白部分とみるべきであるのに対し、ロ号意匠における「葉軸に囲まれたネット状の空間」は、周囲の部分からは独立したいわばイチゴ形の部分として、ロ号製品の独立した構成要素と把握するのが自然であり、右イチゴ形部分として把握される部分は、本件意匠には存在しない。

(四) 同(一)(3)の主張に対して

本件意匠の構成要素である環状に並んだ小花に囲まれた荒い目のネット状の空間(花車状部分)は、ロ号意匠には存在しない。

(五) 同(一)(4)の主張に対して

本件意匠の構成要素である小玉に囲まれた荒い目のネット状の空間(車輪状部分)は、ロ号意匠には存在しない。

(六) 同(一)(6)の主張に対して

本件意匠及びロ号意匠の各構成要素はまったく独立して配置されているものではなく、他の要素と連係して配置されているのであって、いかなる境界線をもって計測すべきかは一義的には決定しえないから、各構成要素の大きさのレース地に対する割合は類似の根拠とはなりえない。

(七) 右のとおり、本件意匠とロ号意匠とは、その主要な構成要素について形態が著しく相違し、非類似である。

全体観察すれば、本件意匠では前記車輪部分及び花車部分が葉柄の両端すなわち葉柄と交互に「…葉柄-車輪-花車-葉柄-車輪-花車-葉柄…」と上下二列に配置されており、また、各葉柄は、連続的にサインカーブを描いて配置されている。これに対し、ロ号意匠では、前記イチゴ形部分はレース地の中央に近い位置に交互に配置され、当該イチゴ形部分から伸びる葉柄がそれぞれ交互にレース端部に広がる印象を与え、葉柄は連続せず、決してサインカーブを描くことはない。したがって、全体として観察しても、本件意匠とロ号意匠とは非類似である。

7  同7の事実は否認する。必ずしも原告主張の製造方法によるとは限らない。

8  同8について

(一) 同(一)の事実は否認する。

被告は、イ号製品を、その製造販売を中止する平成五年六月までの間に、九九八六メートル販売し、その売上額は八九万八七四〇円である。

(二) 同(二)の事実は否認する。

被告は、本訴提起までに、ロ号製品を二万九五七六メートル販売し、その売上額は一九二万二四四〇円である。

9  同9の事実は否認ないし争う。

10  同11について

請求権の代位行使は無制限に認められるべきものではなく、通常実施権者が権利者の有する侵害者に対する請求権を代位行使することによってのみ権利者の通常実施権者に対する債務の履行が確保される関係にある場合に限ってこれを認めるべきである。

11  独占的通常実施権も債権的権利である通常実施権に変わりがなく、したがって、独占的通常実施権者には、意匠権侵害に基づく損害賠償請求は認められない。すなわち、本来通常実施権者との関係では不法行為にならない侵害行為が、意匠権者が通常実施権者との間で独占的通常実施権許諾契約を締結すれば、登録による公示もできない「独占的」という内部契約関係によって、通常実施権者との関係で不法行為を構成するというのは不合理である。したがって、独占的通常実施権者たる原告には、本件意匠権侵害に基づく損害賠償請求は認められない。

さらに、意匠権または専用実施権の侵害については、侵害者に過失が推定されるが(意匠法四〇条本文)、この規定が通常実施権者に関して適用されないことは文理上明らかである。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件意匠権の独占的通常実施権及び専用実施権について

請求原因1(一)の事実及び同(二)の事実のうち原告がコアクレアから平成八年二月一三日に本件意匠権の専用実施権の設定登録を受けたことは当事者間に争いがない。

原告がコアクレアから、本件意匠権登録の当初から右専用実施権の設定登録までは本件意匠権の独占的通常実施権を与えられていたことについては、被告は、明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

二  本件意匠の構成について

1  本件意匠を表示するものであることについて争いのない別紙本件意匠目録及び成立に争いのない甲第一号証によれば、本件意匠の構成は、次のとおりであると認められる(但し、レースの幅方向を縦、他方を横と称し、中心となる葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸と、それに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間とその下方の四個のU字形の模様が、葉柄の右横に位置する角度の上方を上、他方を下と称して各部分の大きさはレース幅に対する割合で示す。)

(一)(1)  レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄八個から構成される葉柄があり、同葉状の柄は、同葉柄の中心の葉軸の上側に三個、下側に四個、葉軸の左側の先端に一個配置され、上側の三個は先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込み、その内側は先端部分よりもやや疎に糸を織り、根元の軸部分はさらに疎に糸を織った三重構造を有し、下側の四個は根元の軸部分を疎に糸を織った以外は全体的に糸を密に織り込んであり、葉軸の左側の先端の一個はハート形の合わせ目で離れてそれぞれが内側へ湾曲し、上側半分が下側半分よりも小さくなっている。

(2)  同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸がある。

(3)  右の二つの要素から表現される、ゆるやかなS字形の波動感をもった葉軸を中心に配している。

(二)  同葉柄の根元の下方に四個の小玉があり、さらにその下方に四個のU字形の模様がある。

(三)  同葉柄の右横に、環状に並んだ小花に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

(四)(1)  同葉柄の左横に、環状に並んだ小玉に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

(2)  その下方に、左上方に頭部を持つ勾玉様の模様がある。

(五)  右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して横に連続させた構成である。

(六)(1)  中心となる葉柄の真縦の最長部分の長さの割合は〇・五三、同真横の最長部分の長さの割合は〇・七六である。

(2)  同葉柄の下方にある四個のU字形模様の真縦の最長部分の長さの割合は〇・一三、同真横の最長部分の長さの割合は〇・三三である。

(3)  同葉軸の右横に環状に並んだ小花群の右端から左端までの長さの割合は〇・四八である。

(4)  同葉軸の左横に環状に並んだ小玉群の右端から左端までの長さの割合は〇・三一である。

(5)  同小玉群の下方に位置する勾玉様の右端から左端までの長さの割合は〇・三五である。

2  意匠とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいうところ(意匠法二条一項)、レース地においては織り方の濃密によってその模様を形成するから、織り方の濃密も意匠の構成要素であると解すべきである。

また、原告が葉軸の上側の四個の葉柄のうちの一番左側の葉柄と主張する葉柄(被告が葉軸の下側の五個の葉柄のうちの一番左側の葉柄と主張する葉柄)については、その形態が他の葉柄とは異なること、他の葉柄がある程度の幅を持って葉軸と接しているのに対して、一点で接していることから、前記認定のとおり他の葉柄とは別に葉軸の左側の先端に配置されていると見るべきである。

原告主張の同葉軸の右横の、同葉軸とそれに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間については、右空間における糸の織り方が一単位の柄と柄の間の空間のそれと同じであること、その外縁はすべて他の構成要素の一部であることから、独立の構成要素と解すべきではない。

三  被告のイ号製品及びロ号製品の製造販売について

1  請求原因3の事実のうち、本件意匠権の登録後、被告がイ号製品を平成五年六月ころまで製造販売していたこと及びロ号製品を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

2  しかし、被告がイ号製品を平成五年六月ころ以降も製造販売していることについては、これを認めるに足りる証拠はない。

かえって、成立に争いのない甲第二号証の一、二及び被告代表者尋問の結果によれば、被告は、原告から平成五年六月二日受領の内容証明郵便でイ号製品の製造販売が本件意匠権を侵害するものであるとしてその製造販売の中止を請求された後、イ号製品の製造販売を中止してきていることが認められる。

四  イ号意匠及びロ号意匠の構成について

1  イ号意匠の構成について

イ号意匠を表示するものであることについて争いのない別紙イ号意匠目録によれば、イ号意匠の構成は、次のとおりであると認められる(但し、レースの幅方向を縦、他方を横と称し、中心となる葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸と、それに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間が、葉柄の右横に位置する角度の上方を上、他方を下と称して各部分の大きさはレース幅に対する割合で示す。)

(一)(1)  レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄六個から構成される葉柄があり、同葉状の柄は、同葉柄の中心の葉軸の上側に四個、下側に二個配置され、それぞれ先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込み、その内側は先端部分よりもかなり疎に糸を織り、根元の軸部分はさらに疎に織った三重構造をなしている。

(2)  同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がっていく葉軸がある。

(3)  同葉軸の右横に、同葉軸とそれに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

(4)  右の三つの要素から表現される、S字形の波動感を持った葉柄を中心に配している。

(二)  同ネット状の空間の左下方に、船形の模様がある。

(三)  同ネット状の空間の右下横に、弧状に並んだ三個の小花がある。

(四)  同葉柄の左横に、前記ハート形の頂部のような微凹頭の葉の先端部と小花に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

(五)  右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して横に連続させた構成である。

(六)(1)  中心となる葉柄の真縦の最長部分の長さの割合は、〇・五一、同真横の最長部分の長さの割合は〇・六一である。

(2)  中心の葉柄の右横に位置する葉軸とそれに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・二六、同真横の最長部分の長さの割合は〇・二九である。

(3)  同ネット状の空間の左下方の船形の模様の、右端から左端までの長さの割合は〇・一八である。

(4)  同ネット状の空間の右下横に弧状に並んだ三個の小花の、右端から左端までの長さの割合は〇・四八である。

(5)  同葉柄の左横の、ハート形の頂部のような微凹頭の葉の先端部と小花に囲まれた荒い目のネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・一〇、同真横の最長部分の長さの割合は〇・一五である。

2  ロ号意匠の構成について

ロ号意匠を表示するものであることについて争いのない別紙ロ号意匠目録によれば、ロ号意匠の構成は、次のとおりであると認められる(但し、レースの幅方向を縦、他方を横と称し、中心となる葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸に囲まれたネット状の空間が、葉柄の右横に位置する角度の上方を上、他方を下と称して各部分の大きさはレース幅に対する割合で示す。)

(一)(1)  レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄六個から構成される葉柄があり、同葉状の柄は、同葉柄の中心の葉軸の上側に四個、下側に二個配置され、それぞれ先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込み、その内側は先端部分よりもかなり疎に糸を織り、根元の軸部分はさらに疎に織った三重構造をなしている。

(2)  同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がっていく葉軸がある。

(3)  同葉軸の右横に、同葉軸に囲まれたネット状の空間がある。

(4)  右の三つの要素から表現される、S字形の波動感を持った葉柄を中心に配している。

(二)  同ネット状の空間の下方に、左上方に頭部を持つ勾玉様の模様がある。

(三)  同ネット状の空間と同勾玉様の模様に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

(四)(1)  同葉柄の左横に、右上方に頭部を持つ勾玉様の模様がある。

(2)  同勾玉様の模様の下に、三個の碗形小片を配し、その間を小玉三個を浮かせたネット状の空間にしている。

(五)  右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して横に連続させた構成である。

(六)(1)  中心となる葉柄の真縦の最長部分の長さの割合は〇・五七、同真横の最長部分の長さの割合は〇・六二である。

(2)  中心の葉柄の右横に位置する葉軸に囲まれたネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・二八、同真横の最長部分の長さの割合は〇・二四である。

(3)  同ネット状の空間の下方の、左上方に頭部を持つ勾玉様の模様の、右端から左端までの長さの割合は〇・三五である。

(4)  同ネット状の空間と同勾玉様の模様に囲まれた荒い目のネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・三〇、同真横の最長部分の長さの割合は〇・二六である。

(5)  同葉柄の左横の右上方に頭部を持つ勾玉様の模様の、右端から左端までの長さの割合は〇・二六である。

(6)  同勾玉様の模様の下に、三個の碗形小片を配し、その間に小玉三個を浮かせたネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・二二、同真横の最長部分の長さの割合は〇・三四である。

五  本件意匠とイ号意匠の対比について

1  本件意匠の構成は、前記認定のとおりであるが、このうち看者の注意を引く部分、すなわち本件意匠の要部は、〈1〉レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄八個から構成される葉柄があり、同葉状の柄は、同葉柄の中心の葉軸の上側に三個、下側に四個、葉軸の左側の先端に一個配置され、上側の三個は先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込み、その内側は先端部分よりもやや疎に糸を織り、根元の軸部分はさらに疎に糸を織った三重構造を有し、同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸がある葉状部分、〈2〉同葉柄の右横にある環状に並んだ小花に囲まれた荒い目のネット状の空間部分、〈3〉同葉柄の左横にある環状に並んだ小玉に囲まれた荒い目のネット状の空間部分である。

2  他方、イ号意匠の構成は、前記認定のとおりであるが、イ号意匠の要部は、〈1〉レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄六個から構成される葉柄があり、同葉状の柄は、同葉柄の中心の葉軸の上側に四個、下側に二個配置され、それぞれ先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込み、その内側は先端部分よりもかなり疎に糸を織り、根元の軸部分はさらに疎に織った三重構造をなし、同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がっていく葉軸がある葉状部分、〈2〉同葉軸の右横にある同葉軸とそれに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間部分、〈3〉同葉柄の左横ある前記ハート形の頂部のような微凹頭の葉の先端部と小花に囲まれた荒い目のネット状の空間部分である。

3  そこで、本件意匠の要部とイ号意匠のそれとを対比すると、〈1〉右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がっていく葉軸があり、その上側と下側にそれぞれ先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉柄があり、同葉柄のうちにそれぞれ先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込みその内側は疎に糸を織っていること、〈2〉右葉状部分の左右両側に円形の荒い目のネット状の空間を配していることは共通しており、各構成部分の大きさの比率も近似していることから、両意匠を全体として観察すれば、美感を共通にしており、類似するものと認められる。

六  本件意匠とロ号意匠の対比について

1  本件意匠の要部については、前記認定のとおりである。

2  ロ号意匠の構成は前記認定のとおりであるが、その要部は、〈1〉レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄六個から構成される葉柄があり、同葉状の柄は、同葉柄の中心の葉軸の上側に四個、下側に二個配置され、それぞれ先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込み、その内側は先端部分よりもかなり疎に糸を織り、根元の軸部分はさらに疎に織った三重構造をなし、同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がっていく葉軸がある葉状部分、〈2〉同葉軸の右横にある同葉軸に囲まれたネット状の空間部分、〈3〉同葉柄の左横にある、右上方に頭部を持つ勾玉様の模様の下に、三個の碗形小片を配し、その間に小玉三個を浮かせたネット状の空間部分である。

3  そこで、本件意匠の要部とロ号意匠のそれとを対比すると、〈1〉右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がっていく葉軸があり、その上側と下側にそれぞれ先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉柄があり、同葉柄のうちにそれぞれ先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込みその内側は疎に糸を織っていること、〈3〉右葉状部分の右側に円形の荒い目のネット状の空間を配していることは共通するが、本件意匠の葉柄の左横にある環状に並んだ小玉に囲まれた荒い目のネット状の空間部分と、ロ号意匠の同葉柄の左横にある、右上方に頭部を持つ勾玉様の模様の下に、三個の碗形小片を配し、その間に小玉三個を浮かせたネット状の空間部分は、その形態において著しく異なっており、両意匠を全体として観察した場合、両意匠は美感を異にするから、類似するとは認められない。

七  差止請求について

(一)  ロ号意匠が本件意匠に類似すると認められないことは、前述のとおりであり、したがって、被告がロ号製品を製造販売することは、原告の本件意匠権の専用実施権を侵害するものではないが、イ号意匠は本件意匠に類似するから、被告がイ号製品を製造販売することは、原告の本件意匠権の専用実施権を侵害するものである。

(二)  被告が、原告から、平成五年六月二日、イ号製品の製造販売の差止請求を受けた後、イ号製品の製造販売を中止していることは前記認定のとおりであるが、被告は右製造販売中止後もイ号意匠が本件意匠に類似することを争っていることは弁論の全趣旨から明らかであり、そうである以上被告は将来イ号製品を製造販売するおそれがあるものと推定され、したがって、被告が本件意匠権についての原告の専用実施権を侵害するおそれがあるものと認められる。

(三)  証人松村豊樹の証言及び弁論の全趣旨によれば、請求原因7の事実が認められる。

(四)  したがって、原告の差止請求(製造販売の停止及び廃棄請求)は、イ号製品については理由があるが、ロ号製品については理由がない。

八  損害賠償請求について

1  独占的通常実施権に基づく損害賠償請求

(一)  被告代表者尋問の結果によれば、被告は、イ号製品を、その製造販売を中止する平成五年六月までの間に四万メートル販売したこと、一メートルあたりの利益は一三・五円であることが認められる。したがって、被告はイ号製品の製造販売により、五四万円の利益を得たと認められる。

(二)  独占的通常実施権に基づく損害賠償請求について

原告は、本件意匠権の専用実施権の設定登録を受ける前に有していた独占的通常実施権の侵害に基づく損害賠償請求をする。

ところで、意匠法は、その四〇条本文において過失の推定規定を、三九条一項において損害の額の推定規定をそれぞれ設けているが、右はいずれも意匠権者と専用実施権者について定めているものであり、独占的通常実施権者については右各規定は適用されない。

したがって、独占的通常実施権者の損害賠償請求権の成否については、債権侵害(独占的通常実施権は意匠権者に対する債権的請求権である。)に対する一般原則に委ねられているものと解される(右意匠法の各規定は、過失及び損害額の推定についての特別規定であり、独占的通常実施権者の損害賠償請求権そのものを否定する趣旨のものとは解されない)。

そして、独占的通常実施権者は、権利の実施品の製造販売にかかる市場及び利益を独占できる地位、期待を得ているのであるから、無権限の第三者が当該意匠あるいはそれと類似の意匠を実施することによって実施権者の右地位や期待利益を侵害する場合には、独占的通常実施権者は固有の権利として直接侵害者に対して損害賠償請求をなし得るものと解するのが相当である。

この点、被告は、独占的通常実施権も債権的権利であるから、損害賠償請求は認められないと主張するが、債権であるからといって権利侵害による損害賠償請求を否定されるいわれはない。また、通常の債権侵害の場合にはそもそも権利内容の公示は問題とならないところ、債権的権利である独占的通常実施権の侵害の場合を別異に解すべき理由はない。

(三)  しかるところ、被告に、イ号製品の製造販売につき、原告の本件意匠権の独占的通常実施権を侵害することについての故意又は過失があったことを認めるに足りる証拠はない。

2  債権者代位権に基づく損害賠償請求について

原告は、独占的通常実施権を保全するため、コアクレアが被告に対して有する損害賠償請求権を代位行使する旨主張する。

右は、民法四二三条の債権者代位権を主張するものと解されるところ、債権者が右代位権を行使するためには、自己の債権を保全するために必要であること、すなわち、債務者の資力が不十分なため、債権者が債務者の権利を行使しなければ自己の債権の完全な満足を受けられなくなる危険の存在を要するところ、この点についての原告の主張はない(その証拠もない)。

3  したがって、原告の損害賠償請求はいずれも理由がない。

九  信用回復措置請求について

証人松村豊樹の証言によれば、細幅レースが特定の服飾メーカーのみに販売されることは認められるが、被告がイ号製品を製造販売したことにより、原告が服飾メーカーの信頼を失い、レースメーカーとしての業務上の信用を著しく毀損低下せしめられたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の信用回復措置請求は理由がない。

一〇  以上のとおりであり、原告の本訴請求は、本件意匠権の専用実施権に基づくイ号製品についての差止請求(製造販売の停止、イ号製品等の廃棄請求)は理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 小林秀和 裁判官 中島真一郎)

本件意匠の主要な構成(一)

(レースの幅方向を縦、他方を横と称し、中心となる葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸と、それに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間とその下方の四個のU字形の模様が、葉柄の右横に位置する角度の上方を上、他方を下と称して各部分の大きさはレース幅に対する割合で示す。)

一1 レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄上下各四個から構成される葉柄がある。

2 同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸がある。

3 同葉軸の右横に、同葉軸とそれに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間がある。

4 右三つの要素から表現される、S字形の波動感を持った葉柄をメインモチーフとして中心に配している。

二 同ネット状の空間の下方に、四個のU字形の模様がある。

三 同ネット状の空間の右横に、環状に並んだ小花に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

四1 同葉柄の左横に、環状に並んだ小玉に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

2 その下方に、左上方に頭部を持つ勾玉様の模様を配し、同環状に並んだ小玉のうちの二個を浮かせたネット状の空間がある。

五 右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して横に連続させた構成である。

六 中心となる葉柄の真縦の最長部分の長さの割合は〇・五三、同真横の最長部分の長さの割合は〇・七六。

七 中心の葉柄の右横に位置する葉軸とそれに続く小花と小玉に囲まれたネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・二五、同真横の最長部分の長さの割合は〇・一七。

八 同ネット状の空間の下方の四個のU字形の模様の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・一三、同真横の最長部分の長さの割合は〇・三三。

九 同ネット状の空間の右横に環状に並んだ小花群の、右端から左端までの長さの割合は〇・四八。

一〇 同葉軸の左横に環状に並んだ小玉群の、右端から左端までの長さの割合は〇・三一。

一一 その下方に、左上方に頭部を持つ勾玉様の模様を配し、同環状に並んだ小玉のうちの二個を浮かせたネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・一七。

一二 同小玉群の下方に位置する勾玉模様の、右端から左端までの長さの割合は〇・三五。

本件意匠の主要な構成(二)

(レースの幅方向を縦、他方を横と称し、中心となる葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸と、それに続く小花と小玉に囲まれたネット状の部分とその下方の三個のU字形の形態が、葉柄の右横に位置する角度の上方を上、他方を下と称する。)

一1 レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄八個から構成される葉柄があり、同葉状の柄は、同葉柄の中心の葉軸の上側に三個、下側に五個配置され、上側の三個は先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込みその内側は先端部分よりもやや疎に糸を織り根元の軸部分はさらに疎に糸を織った三重構造を有し、下側の五個は根元の軸部分を疎に糸を織った以外は全体的に糸を密に織り込んであり、そのうちの最も左側の一個はハート形の合わせ目部分で離れてそれぞれが内側へ湾曲し上側の半分が下側の半分よりもかなり小さくなっている。

2 同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸がある。

3 同葉柄の右側に、同葉柄の下側の最も右の葉状の柄と同葉軸とに囲まれたネットがある。

4 右の三つの要素から表現される、S字形の波動感を持った葉軸を中心に配している。

二 同葉柄根元の下方に四個の小玉があり、さらにその下方に、三個のU字形とその左に三日月形がある。

三 同葉柄の右横に、環状に並べた小花とそれに囲まれた荒い目のネット状からなる花車状部分がある。

四1 同葉柄の左横に、環状に並んだ小玉とそれに囲まれた荒い目のネット状からなる車輪状部分がある。

2 その下方に、左上方に頭部を持つ勾玉用の模様を配し、同環状に並んだ小花のうちの二個を浮かせたネット部分がある。

五 右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して左右に連続させた構成である。

イ号意匠の主要な構成(一)

(レースの幅方向を縦、他方を横と称し、中心となる葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸と、それに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間が、葉柄の右横に位置する角度の上方を上、他方を下と称して各部分の大きさはレース幅に対する割合で示す。)

一1 レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄上四個下二個から構成される葉柄がある。

2 同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸がある。

3 同葉軸の右横に、同葉軸とそれに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

4 右の三つの要素から表現される、S字形の波動感を持った葉柄をメインモチーフとして中心に配している。

二 同ネット状の空間の左下方に、船形の模様がある。

三 同ネット状の空間の右下横に、弧状に並んだ三個の小花がある。

四 同葉柄の左横に、前記ハート形の頂部のような微凹頭の葉の先端部と小花に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

五 右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して横に連続させた構成である。

六 中心となる葉柄の真縦の最長部分の長さの割合は〇・五一、同真横の最長部分の長さの割合は〇・六一。

七 中心の葉柄の右横に位置する葉軸とそれに続く小花に囲まれた荒い目のネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・二六、同真横の最長部分の長さの割合は〇・二九。

八 同ネット状の空間の左下方の船形の模様の、右端から左端までの長さの割合は〇・一八。

九 同ネット状の空間の右下横に弧状に並んだ三個の小花の、右端から左端までの長さの割合は〇・四八。

一〇 同葉柄の左横の、ハート形の頂部のような微凹頭の葉の先端部と小花に囲まれた荒い目のネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・一〇、同真横の最長部分の長さの割合は〇・一五。

イ号意匠の主要な構成(二)

(レースの幅方向を縦、他方を横と称し、葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸と、それに続く小花に囲まれた荒い目のネット状部分が、葉柄の右横に位置する角度の上方を上、他方を下と称する。)

一1 レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄六個から構成される葉柄があり、同葉状の柄は、同葉柄の中心の葉軸の上側に四個、下側に二個配置され、それぞれ先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込みその内側は先端部分よりもかなり疎に糸を織り根元の軸部分はさらに疎に織った三重構造をなしている。

2 同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸がある。

3 同葉柄の右横に、同葉軸とそれに続く小花に囲まれた荒い目のネットからなる手毬形部分がある。

4 右三つの要素から表現される、フック状の葉柄を配している。

二 同手毬形部分の左下方に、舌状部分がある。

三 同手毬形部分の右下横に、弧状に並んだ四個の小花がある。

四 同葉柄の左横に、前記ハート形の頂部のような微凹頭の葉の先端部と小花に囲まれた荒い目のネットがある。

五 右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して左右に連続させた構成である。

ロ号意匠の主要な構成(一)

(レースの幅方向を縦、他方を横と称し、中心となる葉柄から右上方に向かって流れ出てから、時計回りの方向に曲がって行く葉軸に囲まれたネット状の空間が、葉柄の右横に位置する角度の上方を上、他方を下と称して各部分の大きさはレース幅に対する割合で示す。)

一1 レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄上四個下二個から構成される葉柄がある。

2 同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸がある。

3 同葉軸の右横に、同葉軸に囲まれたネット状の空間がある。

4 右の三つの要素から表現される、S字形の波動感を持った葉柄をメインモチーフとして中心に配している。

二 同ネット状の空間の下方に、左上方に頭部を持つ勾玉様の模様がある。

三 同ネット状の空間と同勾玉様の模様に囲まれた荒い目のネット状の空間がある。

四1 同葉柄の左横に右上方に頭部を持つ勾玉様の模様がある。

2 同勾玉様の模様の下に、三個のU字形の模様を配し、その間を小玉三個を浮かせたネット状の空間にしている。

五 右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して横に連続させた構成である。

六 中心となる葉柄の真縦の最長部分の長さの割合は〇・五七、同真横の最長部分の長さの割合は〇・六二。

七 中心の葉柄の右横に位置する葉軸に囲まれたネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・二八、同真横の最長部分の長さの割合は〇・二四。

八 同ネット状の空間の下方の、左上方に頭部を持つ勾玉様の模様の、右端から左端までの長さの割合は〇・三五。

九 同ネット状の空間と同勾玉様の模様に囲まれた荒い目のネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・三〇、同真横の最長部分の長さの割合は〇・二六。

一〇 同葉柄の左横の右上方に頭部を持つ勾玉様の模様の、右端から左端までの長さの割合は〇・二六。

一一 同勾玉様の模様の下に、三個のU字形の模様を配し、その間に小玉三個を浮かせたネット状の空間の、真縦の最長部分の長さの割合は〇・二二、同真横の最長部分の長さの割合は〇・三四。

ロ号意匠の主要な構成(二)

(レースの幅方向を縦、他方を横と称し、葉柄から右上方に向かって流れ出てから、時計回りの方向に曲がって行く葉軸に囲まれたネット状部分が、葉柄の右横に位置する角度の上方を上、他方を下と称する。)

一1 レース下部に、先端がハート形の頂部のような微凹頭の葉状の柄六個から構成される葉柄があり、同葉状の柄は、同葉柄の中心の葉軸の上側に四個、下側に二個配置され、それぞれ先端部分を三日月状にレース糸を密に織り込みその内側は先端部分よりもかなり疎に糸を織り根元の軸部分はさらに疎に織った三重構造をなしている。

2 同葉柄から右上方に向かって流れ出てから時計回りの方向に曲がって行く葉軸がある。

3 同葉軸の右横に、同葉軸に囲まれたネットからなるイチゴ形部分がある。

4 右の三つの要素から表現される、フック状の葉柄を配している。

二 同イチゴ形部分の下方に、左上方に頭部を持つ勾玉様部分がある。

三 同イチゴ形部分と同勾玉様の模様に囲まれた荒い目のネット状部分がある。

四1 同イチゴ形部分の右横に、右上方に頭部を持つ勾玉様部分がある。

2 同勾玉様部分の下に、三個の碗形小片を配し、その間に小玉三個を浮かせたネット状部分がある。

五 右各柄をそれぞれ配置した構成の柄を一単位の柄として、交互に裏返して左右に連続させた構成である。

謝罪広告目録

一 掲載の内容

おわび

今般、当方において製造・販売しました婦人ファッション下着用レースのデザインが、貴社の登録意匠権専用実施権を侵害致しましたことは誠に申し訳ございません。

直ちに、当該商品の製造・販売は中止致しました。

本件に関しましては、貴社が本デザインを、「止め柄」として販売されている関係先各位にご迷惑をおかけ致しましたことを、併せお詫び申し上げます。

平成 年 月 日

群馬県佐波郡境町保泉九四六

株式会社 ファスター

代表取締役 織間一

宝塚市美幸町一〇-五一

栄レース株式会社

代表取締役 土井一郎殿

二 掲載雑誌及び掲載の大きさ

1 掲載雑誌 株式会社繊維商業ニュース社発行の月刊ボディファッション誌

2 大きさ 三分の一頁広告

見出しは三二級太明朝、その他は一八級明朝

日本国特許庁

平成5年(1993)8月17日発行 意匠公報(S)

M1-624B

875469 意願平3-37495 出願 平3(1991)12月11日

登録 平5(1993)5月18日

創作者 澤村徹弥 兵庫県宝塚市逆瀬台1丁目11番4-301号

意匠権者 株式会社コアクレア 兵庫県宝塚市美幸町10番51号

審査官 伊藤栄子

意匠に係る物品 細幅レース地

説明 この意匠は上下にのみ連続するものである。

この意匠は図面代用見本によつて表わされたものであるから細部および色彩については原本を参照されたい

〈省略〉

「本件意匠」目録

〈省略〉

〈省略〉

イ号目録

〈省略〉

〈省略〉

ロ号目録

〈省略〉

〈省略〉

意匠公報

〈省略〉

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